ショッピングセンターに行けば、カニ、エビ、マクロ、サザエ、霜降りの牛肉など高級食材がずらりと並び、街を歩けば、エスニック・レストランで世界各国の料理が食べられる。テレビでは、料理バラエテイ番組が高視聴率を誇っている。
食に関していえば、いまの日本は、まさに、わが世の春である。しかし、そんな飽食の国が、食生活において大きな危機を迎えているといったら、驚かれるだろうか。
たしかに、第二次大戦の直後のような食物の絶対量が不足するといった”食糧難”は存在しない。だが一方で、グルメになった現代の日本人は、栄養のバランスを著しく欠いた。栄養難”に陥っているのである。これが脅しでないことは、1950年代から最近までの日本人の死因の変化が証明している。
ストレプトマイシンやカナマイシンといった強力な抗生物質の発明や衛生環境の向上などの理由によって、かつて「死の宣告」であった結核での死者は激減した。しかし、それにとってかわったのが、がん、心臓病、脳卒中である。この三つの病気だけで、何と日本人の死因の六割を古めているのだ。
とくに、がんと心臓病の死亡率の上昇には、目を見張るものがある。厚生労働省(厚労省)の人口動態調査によると、2004年、日本でがんによる死者は32万358人で、死亡総数の31%を占めた。何と三割以上の人ががんで倒れているのだ。
がんは遺伝子の病気であることはよく知られているが、食生活はがんを発生させたり、抑えたりする大きな要因なのである。
なぜならば、体内で発生したがん細胞を殺したり、がん細胞の増殖を抑えたりする「免疫」というシステムは、栄養のバランスが崩れることで、かんたんに弱まってしまうからである。
免疫だけでなく、食べ物そのものが直接影響することもある。たとえば、胃がんの減少は、日本人が以前ほどしょっぱいものを食べなくなってきたことが大きな理由だし、逆に、肝臓がんや大腸がんの増加は、肉やハムなど脂肪分の多い食べ物を摂るようになってきた食生活の変化に原因があるからだ。
また、心臓病についていえば、とりわけ間題になっているのは、狭心症や心筋梗塞である。狭心症はコレステロールの蓄積によって動脈がせばまり、心臓に酸素が十分に届かない状態で、胸が痛くなる。一方の心筋梗塞は、動脈に血液の塊である血栓ができて心臓への酸素の供給がすっかり遮られた状態で、胸に激痛をともなう。
どちらも”動脈硬化”によって心臓に酸素が十分に届かないことで発生する病気である。
この動脈硬化は、動脈に体内の老廃物やカルシウムがたまり、血管が柔軟性を失って硬くなる病気で、高血圧をともない、血管がもろくなる。この動脈硬化の原因こそが、片寄った食生活なのである。