ビタミンEのことを”トコフェロール″という。トコフェロールは、「トコ」「フェレイン」「オール」という三つの言葉をつなぎあわせてつくった合成語だ。「トコ」は子供を生む、「フェレイン」は妊娠、「オール」はアルコールを意味する接尾語である。つまり、トコフェロールには「子供を生ませるアルコール」という意味がある。
勘違いされると困るが、アルコールとは生化学では水酸基がくっついた分子なら何でもこう呼ぶ。
さて、ビタミンEはどのようにして発見されたのだろうか?
一九二〇年ころ、カリフォルニア大学バークレー校のマクリーンーエバンス教授とスコットービショップ博士は、ネズミを人工飼料で育てようとしていた。人工飼料の成分は、タンパク質、糖類、脂肪、ビタミンA、C、D、チアミン(ビタミンB1)であったから、この当時としては、栄養満点のエサだ。こんなにいいエサを食べたネズミは、スクスクと育つに違いない、と彼らは期待した。その期待を裏切ることなく、ネズミは大きく成長した。
だが、どうしたことだろうか。ネズミはりっぱに成長したが、うまく増えなかったのだ。何かがエサに足りないため、ネズミが不妊症になったことは明らかだ。
彼らは、エサに不足している物質を突き止めるために、さまざまな食品をエサに混ぜて、ネズミが増えるかどうかを確かめた。この研究をはじめて二年がすぎた1922年のこと。エサにわずかの酵母や新鮮なレタスを加えると、ネズミが子を生みはじめたではないか。こうして、エバンスとビショップはネズミの不妊症が酵母や新鮮なレタスで治ることを発見した。
酵母や新鮮なレタスには、不妊症を治すまだ知られていなかった栄養素が含まれていたのである。彼らは、この未知の栄養素を「ファクターX」と名づけた。
なおも研究を進めると、ファクターXはアルファルファ、小麦の胚芽油、肉類、牛乳にも含まれていることがわかった。そうなれば、ファクターXを追跡したくなるのは科学者として当然である。
彼らは、これらの食物をすりつぶして、水か油に溶かし、その成分をネズミに与え、ネズミが妊娠するかどうかを調べることにした。このようにして、油に溶ける成分のなかからファクターXを純粋な物質として取り出すことに成功した。
このとき、エバンスはファクターXを「子供を生ませるアルコール」トコフェロールと命名したのである。
トコフェロールの不足したエサを食べたネズミが、不妊症になることは実験で確認された。だが、人ではどうなのだろうか?
これは興味ぶかい疑問であるが、トコフェロールの不足と人の不妊症の関係を証明する実験を行うことは人道的な理由によってできない。実験によって証明することはできないが、ほかの動物でもネズミの場合と似たような結果が得られているから、人でも同じだろうと考えられる。
親戚に、結婚して四年になるのに子宝に恵まれない夫婦がいたので、ビタミンEを送ったところ、一年後、「やっと妊娠しました」といううれしい電話がかかってきたことがある。
もしそれなりの努力をしているにもかかわらず、子どもができないという家庭があったら、ビタミンEをきちんと摂取しているかどうかを、チェックしてみてほしい。
「家庭のしあわせ」ともいえる子宝も、ビタミンEが不足していては危ういことがわかった。
このように、ビタミンEは「種の保存」という、生き物にとってもっとも重要なことにかかわっている。結婚して二~三年もすると、そろそろ子どもが欲しくなる、そんな夫婦はビタミンEを十分に摂ってほしい。